- 10月 10, 2024
痛風・高尿酸血症の最近の進歩1
痛風・高尿酸血症は生活習慣病であり,食事療法,飲酒制限,運動などの生活指導が基本となります.適正なエネルギーの摂取,プリン体・果糖の過剰摂取の回避,適切な飲水が勧められます.近年尿酸トランスポーターの遺伝子変異が病態発症に関係している可能性が指摘されていますが,いずれにせよ生活指導の順守は重要です.ビールはプリン体含有量が多く,蒸留酒やワインよりも血清尿酸値を上昇させるため,控えるのが望ましいです.
薬物治療の適応に関しては「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」の治療指針が参考になります.痛風をくり返す患者さんは薬物治療の適応となり,血清尿酸値を6.0 mg/dL以下にコントロールします.また,痛風発作を誘発させないために,尿酸降下薬は最小量から開始し,必要に応じてコルヒチンカバーを併用します.無症候性高尿酸血症への薬物治療開始は血清尿酸値8.0 mg/dL以上を一応の目安にします.
高尿酸血症の病型分類は,腎における尿酸の排泄効率が低下した「尿酸排泄低下型」,腎に対する尿酸負荷が増大し,血清尿酸値の上昇をきたす「腎負荷型」,その両者を要因とする「混合型」に大別されます.さらに腎負荷型は尿酸の産生量が増加する「尿酸産生過剰型」と腸管からの尿酸排泄が低下するために腎からの尿酸排泄が増加する「腎外排泄低下型」に分けられます.病型分類に応じて,尿酸排泄低下型には尿酸排泄促進薬を投与し,尿酸産生過剰型には尿酸生成抑制薬を投与するのが原則ですが,合併症など考慮して臨機応変に投与薬を検討すべきです.
最近,尿酸排泄促進薬で新しい薬であるドチヌラドが上市され,注目されています.近位尿細管での尿酸の再吸収に重要な役割を果たす尿酸トランスポーターのURAT1を特異的に阻害し,尿細管や腸管で尿酸の吸収に働く尿酸トランスポーターであるABCG2はほとんど阻害しないため,より強力な尿酸降下作用が期待されています.
薬の基礎知識
1 尿酸生成抑制薬
キサンチン酸化還元酵素(XOR)阻害薬として以下の3つが使用できます.
新規の2薬剤は胆汁からの排泄経路を有するため,中等度までの腎機能低下患者に対して減量の必要がありません.さらにアロプリノールと比較して薬剤相互作用が少なく使用しやすいです.ただし,メルカプトプリン水和物またはアザチオプリンとの相互作用はいずれのXOR阻害薬にも共通しているので注意すべきです.
1) アロプリノール
1969年に発売され長く使用されてきました.プリン体骨格を有し,XORの活性中心に結合し,反応を受けオキシプリノールを生成します.オキシプリノールの一部がXORに弱い共有結合で反応中心に結合し,XOR活性を阻害し尿酸生成を阻害します.
頻度は決して多くはありませんが,副作用として中毒性表皮壊死症,Stevens-Johnson症候群といった重篤な合併症の報告があります.重症薬疹はHLA-B*5801遺伝子保有者に高率に生ずることが明らかとなっていますが,日本人の保有率は1.2%と低率です.腎機能低下に伴いオキシプリノールの血中濃度が上昇するため,腎機能に応じて投与量を調節する必要があります.また,シクロスポリン,テオフィリンやワルファリンなどとの相互作用にも注意が必要です.
2) フェブキソスタット
2011年に日本で発売されました.XORの活性中心付近に結合し,基質となるキサンチンの結合をブロックし,酵素活性を低下させて尿酸生成を阻害します.
3) トピロキソスタット
2013年に日本で発売されました.薬物自身が酵素により水酸化されながら中間体を維持し,さらにXORの酵素活性中心を埋め尽くすような形態で結合し,基質をブロックすることで尿酸生成を阻害します.
2 尿酸排泄促進薬
URAT1阻害薬のベンズブロマロンが1978年から使用されています.URAT1は主に腎尿細管に分布し,尿酸再吸収に関与している尿酸トランスポーターです.腎機能低下では尿酸排泄促進薬の効果は減弱することが想定されますが,ベンズブロマロンの作用は強力で,Stage 3のCKD患者には常用量でも十分に血清尿酸値のコントロールは可能で,Stage 4においても投与量を増量することで血清尿酸値の低下が期待できます.
高尿酸血症は尿酸結石のみならず尿路結石全般の危険因子であり,尿酸排泄促進薬使用時は尿路結石予防のための尿路管理を十分行う必要があります.水分を十分に摂取して尿量増加を保ち,酸性尿では尿路結石ができやすいため,クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウムの投与で尿をアルカリ化させます.ただし腎機能低下があるときは血清カリウム値を上昇させないように注意します.
ベンズブロマロンは肝障害リスクが懸念されており,その点を克服する薬剤としてドチヌラドが日本で開発されました.ドチヌラドは近位尿細管での尿酸の再吸収に重要な役割を果たす尿酸トランスポーターのURAT1を特異的に阻害し,尿細管や腸管で尿酸の吸収に働く尿酸トランスポーターであるABCG2はほとんど阻害しません.ドチヌラドは既存の尿酸排泄促進薬に比べ,URAT1阻害が強くかつURAT1選択性が高い「選択的尿酸再吸収阻害薬」であり,腸管においてABCG2を阻害しないため腎臓への尿酸負荷を回避する尿酸排泄促進薬と言えます.用量反応検証試験で,投与終了時の血清尿酸値6.0mg/dL以下の達成率は0.5mgで23.1%,1mgで65.9%,2mgで74.4%,4mgで100%とこれまでの薬剤に比べて顕著な尿酸降下作用が認められました.肥満を伴う高尿酸血症では尿酸排泄低下型が多く,ドチヌラドは今後積極的に使用してよい薬と考えられます.
3 尿酸分解酵素薬(ラスブリカーゼ)
腫瘍崩壊症候群(TLS)にのみ適応がある遺伝子組換え型の尿酸オキシダーゼ(ウリカーゼ,ウリケースともいう)です.TLSとは腫瘍細胞を薬物療法などで急激に破壊する際に,細胞内成分の急速な放出により,高尿酸血症,高カリウム血症,高リン血症が急速に生じる病態です.ラスブリカーゼは尿酸を腎臓から排出されやすいアラントインに分解することで血清尿酸値をすみやかに低下させます.注意点として,ラスブリカーゼ投与の約1割で抗体産生が認められ,再投与の際にアナフィラキシーが生じることがあります.
痛風発作時の考え方
症例1
60歳男性.1カ月前から左肘,右第1足趾の痛みが強くなり,内科外来を受診しました.臨床的に痛風発作と診断されました.
身長175 cm,体重78 kg.血圧160/95 mmHg,脈拍80/分,整.
血液検査:Alb 3.9 g/dL,BUN 15.0 mg/dL,Cr 1.10 mg/dL,UA 8.7 mg/dL,HbA1c 6.1%,CRP 2.5 mg/dL.
尿検査:Cr 250 mg/dL,尿酸50 mg/dL.
痛風発作および高尿酸血症に対してどのように対応すべきでしょうか?
痛風発作時には,短時間作用型の強力なNSAIDsの十分量の投与によりできるだけすみやかに消褪させることが重要です.血清尿酸値の急激な変動が痛風発作を誘発するため,痛風発作が治まるまで尿酸降下薬の開始を待つべきです.痛風発作が治まったら,尿酸降下薬の開始を検討します.なお,尿酸降下薬を服用中に痛風関節炎を起こした患者では,尿酸降下薬を中止することなく,投与を継続してNSAIDsを追加します。
尿からのgCrあたりの尿酸排泄率を計算すると50/250=0.2 g/gCrとなります.簡便には随時尿の0.5 g/gCr以上であれば尿酸産生過剰型,0.5 g/gCr以下であれば尿酸排泄低下型と分類されるため,本例では尿酸排泄低下型となります.尿中尿酸濃度が50 mg/dL以上であれば飲水指導を強化して希釈尿にさせることも推奨されます.尿酸排泄低下型では理論的には尿酸排泄促進薬を投与しますが,フェブキソスタット,トピロキソスタットを使うことも可能です.尿酸排泄促進薬では近年開発された選択的尿酸再吸収阻害薬であるドチヌラドが肝障害のリスクも高くなく使いやすいです.以前の尿酸排泄薬であるベンズブロマロンを投与する場合は,劇症肝炎などの重篤な肝障害が主に開始6カ月以内に報告されているために少なくとも6カ月間は必ず定期的に肝機能検査を行います.急激な血清尿酸値の低下は痛風発作を誘発するためできるだけ少ない投与量から開始することが望ましいです.投与開始2週間以降に投与量の増量を検討します.痛風発作が頻発している場合,コルヒチン0.5~1.0 mg/日を尿酸降下薬開始後3~6カ月間併用することがあります(コルヒチンカバー).
●処方例
フェブキソスタット(フェブリク®)1回10 mg 1日1回(朝食後)
トピロキソスタット(ウリアデック®)1回20 mg 1日2回(朝夕食後)
ドチヌラド(ユリス®)1回0.5 mg 1日1回(朝食後)
ベンズブロマロン(ユリノーム®)1回25 mg 1日1回(朝食後)
痛風発作の急性期には尿酸降下薬を開始すべきではありません.また,尿酸降下薬を服用中に痛風発作を起こした患者では尿酸降下薬を中止する必要はなく,同じ量で継続します。