- 10月 26, 2024
むくみ1
はじめに
今回はむくみに関して、医師の側でどのような考え方で診察しているかを記載します。患者さんはむくみに関してさまざまな原因があり、安易に利尿薬を使用すべきではないことを理解するだけで十分です。
浮腫(むくみ)とは,組織間質への過剰な体液の貯留のことです。浮腫の患者さんを診る際に重要なのは,やはり詳細な問診と身体診察です。浮腫の原因にはさまざまあり,鑑別疾患に苦慮することも多いです。両側性下肢浮腫の原因として多いのは,うっ血性心不全,慢性下肢静脈不全,肺高血圧症,蛋白尿を伴った腎炎,薬剤性です。片側性下肢浮腫の原因としては,急性は深部静脈血栓症,慢性は下肢静脈不全が多いです。また閉経前の女性にみられる特発性浮腫では利尿薬が悪化因子とされており注意が必要です。治療に関しては,病態・病因に応じて異なり,安易な利尿薬の投与はするべきではありません。
浮腫の診察は,①浮腫の分布,②皮膚の状態の観察,③全身状態の確認を行うことが重要です。
局所性か全身性か,診察します。局所性浮腫は,局所の病変によって起こります。蜂窩織炎などでは炎症局所が,深部静脈血栓症では閉塞部位より末梢で浮腫を生じます。
圧痕性浮腫か非圧痕性浮腫か,診察します。脛骨前面などを母指で圧迫して行います。指を離したあとも圧痕が残るpitting edema (圧痕性浮腫)と,圧痕が残らずに速やかに回復するnon-pitting edema (非圧痕性浮腫)に分類されます。非圧痕性浮腫は甲状腺機能低下症やリンパ性浮腫,蜂窩織炎,血腫などで認められる。圧痕性浮腫は,さらにその回復時間により40秒未満のfast edemaと40秒以上のslow edemaに分類されます。約10秒間約5 mmの深さで圧迫して回復を確認します。Fast edemaを呈するのは低アルブミン血症(2.5 g/dl以下)に伴う浮腫が疑われます。
次に皮膚の色調を見ます。下肢静脈瘤では皮膚が全体に褐色調となり,痂皮形成を伴った紅斑を認めます。蜂窩織炎では暗赤色を呈します。血管炎では隆起した紫斑 (palpable purpura)が多数認められます。慢性化したリンパ性浮腫では皮膚が硬くなり,褐色調に変化します。
全身性浮腫では,血圧,心拍数,呼吸数,心音・呼吸音,肝腫大,腹水,頸静脈怒張などが鑑別診断に役立ちます。
病態・治療の解説
病態
浮腫を引き起こす疾患はさまざまなものがあり,まずは鑑別疾患が重要です。表1に主な浮腫の成因と鑑別点をあげました。まずは,浮腫が局所性か全身性かで分類します。急性局所性下肢浮腫の診断アルゴリズムを図1に記載しました。外科的な対応が必要なことも多く,詳細については割愛します。以下には主な全身性浮腫の病態について述べます。
①ネフローゼ症候群による浮腫
ネフローゼ症候群では低蛋白血症,低アルブミン血症から血漿膠質浸透圧が低下し,間質に水分が移動するために浮腫を生じます。多量の尿蛋白が出る微小変化型ネフローゼ症候群では,血漿膠質浸透圧が低下し,間質に水分が移動することで,血管内の水分が不足していることが多いです。このような症例では安易な利尿薬の使用は腎機能障害の進行を引き起こすため,控えるべきです。
②腎機能障害による浮腫
急性腎障害,特に乏尿期には糸球体濾過量の急速な減少により,浮腫を呈します。慢性腎障害 (CKD)でも過剰に水分や塩分を摂取すると浮腫を呈することが多いです。このような場合には塩分制限や利尿薬の使用が望ましいですが,過度の利尿から腎機能障害の進行を認めることが多く,適切な体液量の維持が重要です。具体的には体重の変化や下肢の浮腫,脱水症状の有無などがよい指標となります。
③心性浮腫
心不全では心拍出量の低下により静脈系のうっ血が生じます。そのため,静脈圧が上昇し,間質への水分移動から浮腫を生じます。心不全では心拍出量の低下から有効循環血漿量の低下が生じています。そのため,抗利尿ホルモン (ADH)の分泌が増加している。心不全で低ナトリウム血症を生じている症例では,バソプレシンV2受容体阻害薬であるトルバプタンなどが適応になります。
④肝性浮腫
肝硬変では,低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下および腎臓でのNa吸収の増加から,下肢の浮腫および腹水貯留をきたします。フロセミドおよびスピロノラクトンを使用して治療します。最近ではバソプレシンV2受容体阻害薬であるトルバプタンも使用されるようになってきています。
⑤内分泌性浮腫
甲状腺機能低下症の浮腫は圧痕を残さないことが特徴です。これは組織間液が多量のムコ多糖類,コンドロイチン硫酸,ヒアルロン酸などを含み,流動性が乏しいことによります。
甲状腺機能亢進症でも浮腫を伴うことがあり,心機能低下,異化亢進による低アルブミン血症が原因です。
Cushing症候群でも浮腫が見られることがあります。これはヒドロコルチゾンによるNa吸収増加と異化亢進による低蛋白血症が関与しています。
内分泌性浮腫ではいずれも原病の治療が重要です。
⑥特発性浮腫
さまざまな検査をしても器質的異常がない,原因不明の浮腫を指します。
Thornの基準は <1>朝と夜の体重差が1.4kg以上,<2>浮腫を来す器質的疾患がない,<3>精神的障害があるか,感情的に不安定 です。
診断は除外診断であり,女性の場合が多く,間欠的な浮腫が特徴です。ストレスの多い仕事に従事していることが多く,ストレスが多いと浮腫も強くなる傾向があります。生理前に浮腫が強くなることもあり,ホルモンバランスの異常が関与している可能性もあります。浮腫のメカニズムとしては,毛細血管の透過性が亢進していることが原因と考えられています。利尿薬は増悪因子とされています。女性に多いこともあり,顔もむくみがつらいとのことから,利尿薬を内服していることがあり,注意が必要です。現在のところ,特効薬はなく,ストレスのコントロールや生活習慣の改善が主体になります。
⑦薬剤性浮腫
表2に浮腫と関連性が報告されている主な薬剤を記載しました。この場合,薬剤を中止することが治療の主体です。