- 2月 23, 2025
腎性貧血治療についての講演会
腎性貧血治療についての講演会を2025年2月19日に兵庫県尼崎市西昆陽にて行いました。当日はいろいろと質問いただき、いろいろと勉強になりました。
講演の内容を以下に簡単に記載します。
☆腎性貧血とは
腎性貧血は、腎障害に伴い出現する貧血であり、その主たる原因は腎臓から産生される赤血球産生刺激因子であるエリスロポエチンの相対的分泌低下である。
それのみが原因ではなく、腎障害に伴う尿毒症、酸化ストレス、慢性炎症などによる赤血球産生の抑制、あるいは赤血球寿命の短縮なども原因として関与している。
腎性貧血は、腎機能低下を指標としてみた場合は、慢性腎臓病ステージでいえば、ステージG3以降に認められることがほとんどである。そして、腎機能が低下するにつれ腎性貧血は増加する。
ほとんどの腎性貧血症例では、血中エリスロポエチンレベルは正常上限をやや超えた約50国際単位(IU)/mL未満にとどまる。
腎性貧血の問診では、症状として貧血疾患に共通してみられる全身倦怠感、労作時息切れ、動悸などが聴取される。
しかし、慢性的に進行する貧血なので、患者自身は貧血症状を自覚していないことが多い。
診察上、眼瞼結膜の貧血所見が重要である。
☆腎性貧血の診断
貧血が認められ、eGFR<60mL/min/1.73m2であれば腎性貧血を思い浮かべる。
次に、鑑別診断として平均赤血球容積(MCV)を測定する。腎性貧血のほとんどは、正球性貧血に属するが、一部の症例は大球性貧血の範囲のMCV値を呈する。小球性貧血であれば、鉄欠乏性貧血など他の貧血疾患の合併を考える。
網赤血球は骨髄での赤血球造血を反映しており、腎性貧血では正常~減少を呈する。網赤血球の標準化された基準値はないが、10万/μL以下である場合は正常~減少と判断する。
血中エリスロポエチン濃度測定は参考になる。50 IU/mL未満では腎性貧血の可能性を疑う。
腎機能がeGFR>60 mL/min/1.73 m2であれば、腎性貧血は否定的である。
しかし、高齢者では腎機能がeGFR>60 mL/min/1.73 m2であっても、腎臓からのエリスロポエチン産生が低下している場合がある。その場合は、血中エリスロポエチンレベルが50 mIU/mL未満であることを確認して腎性貧血と診断する。
☆腎性貧血の治療
腎性貧血に対しては、治療薬として赤血球造血刺激因子製剤(ESA)もしくはHIF-PH阻害薬を使用する。少量の使用量から開始し、Hb値あるいはHb値上昇速度を見ながら使用量を増やす。
鉄欠乏性貧血があれば、腎性貧血治療薬使用前に鉄剤で補充治療をする。原則として治療には内服鉄剤を用いる。血液透析患者であれば静注鉄剤を考慮する。
赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の種類には、①エポエチンアルファ(エスポー)またはベータ(エポジン)、②ダルベポエチンアルファ(ネスプ)、③エポエチンベータペゴル(ミルセラ)の3種類が存在する。保存期腎不全患者では、投与間隔があけられる長期作用型ESAであるダルベポエチンアルファ、エポエチンベータペゴルが使用しやすい。
長時間作用型ESAは、使用量の調節によりHb値オーバーシュート(Hb値>13.0 g/dL)の率を減らすことができる可能性がある。
急激なHb値の上昇により高血圧を惹起する症例が存在するので、降圧療法を十分に行いながら急激なHb値の上昇を回避しESA治療することを推奨する。
ESAの副作用としては、高血圧、血栓症に注意が必要である。
赤芽球癆(頻度不明):ESA使用時、抗エリスロポエチン抗体産生を伴う赤芽球癆が現れることがあるので、投与中は十分注意し、必要に応じて薬剤の投与を中止する。
悪性腫瘍のある症例に ESAを使用する際は、腫瘍悪化に注意が必要である。
☆細胞の低酸素応答-HIF
2019年のノーベル医学生理学賞:細胞が酸素不足の環境でも応答する仕組みを解明
低酸素の環境では,HIF-1αが分解せず核内に蓄積する。このときHIF-1の一部であるARNTが,低酸素に応答する遺伝子の転写調節領域にある特定のDNA領域と結合する。酸素が普通にあるときは,HIF-1αはプロテアソームによって迅速に分解される。HIF-1αが水酸化され,VHLタンパク質がHIF-1αを認識して結合し,分解が進む。
HIFはα鎖とβ鎖によるヘテロ二量体を構成する.
HIF-αにはHIF-1α,HIF-2α,HIF-3αのアイソフォームが存在し,それぞれ固有の機能を有している.EPOの産生に関与しているのはHIF-2αとされている.
酸素分子の存在下でα鎖のプロリン残基が水酸化され,これが引き金となってユビキチンリガーゼ複合体の構成成分であるvon Hippel-Lindau(pVHL)タンパクが結合し,プロテアソーム分解を受ける.
一方,低酸素下ではHIF-PHが活性を失うため,α鎖が水酸化されずに分解を逃れ,分解されなかったα鎖は細胞質から核へ移行し,β鎖とヘテロ二量体を形成し,標的遺伝子の転写調節領域に結合して低酸素に対する適応応答分子の転写を促進する.
そのターゲット遺伝子としては,赤血球造血を引き起こすEPO,血管新生を誘導するVEGF,低酸素に対するさまざまな適応応答分子が含まれている.
☆HIF-PH阻害薬
HIF-PH阻害薬(HIF-PH inhibitor)として、ロキサデュスタット(エベレンゾ)、ダブロデュスタット(ダーブロック)、バダデュスタット(バフセオ)、エナロデュスタット(エナロイ))、モリデュスタット(マスーレッド)がある。
転写因子であるHIFの分解に働くHIF-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)を阻害する。これにより、HIF-αの分解が抑制されHIF経路が活性化され、その結果エリスロポエチン産生が増加する。同時にヘプシジン低下も誘導され消化管からの鉄吸収および体内貯蔵鉄の利用が亢進し貧血改善につながる。
内服薬である点が特徴である。併用注意薬がそれぞれの薬剤で異なるため、各薬剤添付文書を参考として処方する必要がある。
HIF-PH阻害薬の副作用としては、血栓症の発症に注意が必要である。→特に鉄欠乏状態で血栓症が起きやすいとされており、HIF-PH阻害薬開始前に鉄補充を十分に行う必要がある。またHIF-PH阻害薬使用中も採血で鉄代謝を確認し、適宜鉄補充を行う。
悪性腫瘍のある症例に HIF-PH阻害薬を使用する際は、腫瘍悪化に注意が必要である。
ロキサデュスタットは中枢性甲状腺機能低下症があらわれることがある。
☆ESAとHIF-PH阻害薬の使い分け
鉄利用障害がある時、注射より内服薬がよい時はHIF-PH阻害薬の優位性があると考える。
☆腎臓病進行のfinal common pathway: 低酸素
腎臓の慢性低酸素状態がすべての腎臓病の進行に深く関与していることが分かってきた (東大病院腎臓内分泌内科 南学正臣教授による)。
☆心腎貧血連関
☆HIF-PH阻害薬の腎保護
HIFを活性化することでマウスやラットの虚血再灌流障害モデルや5/6腎摘モデルで腎保護効果を示した。
今後、ヒトでの臨床試験でもHIF活性化により、腎保護効果や心保護効果、血管保護効果などが認められることが期待される。
講演の内容を以下に簡単に記載します。
☆腎性貧血とは
腎性貧血は、腎障害に伴い出現する貧血であり、その主たる原因は腎臓から産生される赤血球産生刺激因子であるエリスロポエチンの相対的分泌低下である。
それのみが原因ではなく、腎障害に伴う尿毒症、酸化ストレス、慢性炎症などによる赤血球産生の抑制、あるいは赤血球寿命の短縮なども原因として関与している。
腎性貧血は、腎機能低下を指標としてみた場合は、慢性腎臓病ステージでいえば、ステージG3以降に認められることがほとんどである。そして、腎機能が低下するにつれ腎性貧血は増加する。
ほとんどの腎性貧血症例では、血中エリスロポエチンレベルは正常上限をやや超えた約50国際単位(IU)/mL未満にとどまる。
腎性貧血の問診では、症状として貧血疾患に共通してみられる全身倦怠感、労作時息切れ、動悸などが聴取される。
しかし、慢性的に進行する貧血なので、患者自身は貧血症状を自覚していないことが多い。
診察上、眼瞼結膜の貧血所見が重要である。
☆腎性貧血の診断
貧血が認められ、eGFR<60mL/min/1.73m2であれば腎性貧血を思い浮かべる。
次に、鑑別診断として平均赤血球容積(MCV)を測定する。腎性貧血のほとんどは、正球性貧血に属するが、一部の症例は大球性貧血の範囲のMCV値を呈する。小球性貧血であれば、鉄欠乏性貧血など他の貧血疾患の合併を考える。
網赤血球は骨髄での赤血球造血を反映しており、腎性貧血では正常~減少を呈する。網赤血球の標準化された基準値はないが、10万/μL以下である場合は正常~減少と判断する。
血中エリスロポエチン濃度測定は参考になる。50 IU/mL未満では腎性貧血の可能性を疑う。
腎機能がeGFR>60 mL/min/1.73 m2であれば、腎性貧血は否定的である。
しかし、高齢者では腎機能がeGFR>60 mL/min/1.73 m2であっても、腎臓からのエリスロポエチン産生が低下している場合がある。その場合は、血中エリスロポエチンレベルが50 mIU/mL未満であることを確認して腎性貧血と診断する。
☆腎性貧血の治療
腎性貧血に対しては、治療薬として赤血球造血刺激因子製剤(ESA)もしくはHIF-PH阻害薬を使用する。少量の使用量から開始し、Hb値あるいはHb値上昇速度を見ながら使用量を増やす。
鉄欠乏性貧血があれば、腎性貧血治療薬使用前に鉄剤で補充治療をする。原則として治療には内服鉄剤を用いる。血液透析患者であれば静注鉄剤を考慮する。
赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の種類には、①エポエチンアルファ(エスポー)またはベータ(エポジン)、②ダルベポエチンアルファ(ネスプ)、③エポエチンベータペゴル(ミルセラ)の3種類が存在する。保存期腎不全患者では、投与間隔があけられる長期作用型ESAであるダルベポエチンアルファ、エポエチンベータペゴルが使用しやすい。
長時間作用型ESAは、使用量の調節によりHb値オーバーシュート(Hb値>13.0 g/dL)の率を減らすことができる可能性がある。
急激なHb値の上昇により高血圧を惹起する症例が存在するので、降圧療法を十分に行いながら急激なHb値の上昇を回避しESA治療することを推奨する。
ESAの副作用としては、高血圧、血栓症に注意が必要である。
赤芽球癆(頻度不明):ESA使用時、抗エリスロポエチン抗体産生を伴う赤芽球癆が現れることがあるので、投与中は十分注意し、必要に応じて薬剤の投与を中止する。
悪性腫瘍のある症例に ESAを使用する際は、腫瘍悪化に注意が必要である。
☆細胞の低酸素応答-HIF
2019年のノーベル医学生理学賞:細胞が酸素不足の環境でも応答する仕組みを解明
低酸素の環境では,HIF-1αが分解せず核内に蓄積する。このときHIF-1の一部であるARNTが,低酸素に応答する遺伝子の転写調節領域にある特定のDNA領域と結合する。酸素が普通にあるときは,HIF-1αはプロテアソームによって迅速に分解される。HIF-1αが水酸化され,VHLタンパク質がHIF-1αを認識して結合し,分解が進む。
HIFはα鎖とβ鎖によるヘテロ二量体を構成する.
HIF-αにはHIF-1α,HIF-2α,HIF-3αのアイソフォームが存在し,それぞれ固有の機能を有している.EPOの産生に関与しているのはHIF-2αとされている.
酸素分子の存在下でα鎖のプロリン残基が水酸化され,これが引き金となってユビキチンリガーゼ複合体の構成成分であるvon Hippel-Lindau(pVHL)タンパクが結合し,プロテアソーム分解を受ける.
一方,低酸素下ではHIF-PHが活性を失うため,α鎖が水酸化されずに分解を逃れ,分解されなかったα鎖は細胞質から核へ移行し,β鎖とヘテロ二量体を形成し,標的遺伝子の転写調節領域に結合して低酸素に対する適応応答分子の転写を促進する.
そのターゲット遺伝子としては,赤血球造血を引き起こすEPO,血管新生を誘導するVEGF,低酸素に対するさまざまな適応応答分子が含まれている.
☆HIF-PH阻害薬
HIF-PH阻害薬(HIF-PH inhibitor)として、ロキサデュスタット(エベレンゾ)、ダブロデュスタット(ダーブロック)、バダデュスタット(バフセオ)、エナロデュスタット(エナロイ))、モリデュスタット(マスーレッド)がある。
転写因子であるHIFの分解に働くHIF-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)を阻害する。これにより、HIF-αの分解が抑制されHIF経路が活性化され、その結果エリスロポエチン産生が増加する。同時にヘプシジン低下も誘導され消化管からの鉄吸収および体内貯蔵鉄の利用が亢進し貧血改善につながる。
内服薬である点が特徴である。併用注意薬がそれぞれの薬剤で異なるため、各薬剤添付文書を参考として処方する必要がある。
HIF-PH阻害薬の副作用としては、血栓症の発症に注意が必要である。→特に鉄欠乏状態で血栓症が起きやすいとされており、HIF-PH阻害薬開始前に鉄補充を十分に行う必要がある。またHIF-PH阻害薬使用中も採血で鉄代謝を確認し、適宜鉄補充を行う。
悪性腫瘍のある症例に HIF-PH阻害薬を使用する際は、腫瘍悪化に注意が必要である。
ロキサデュスタットは中枢性甲状腺機能低下症があらわれることがある。
☆ESAとHIF-PH阻害薬の使い分け
鉄利用障害がある時、注射より内服薬がよい時はHIF-PH阻害薬の優位性があると考える。
☆腎臓病進行のfinal common pathway: 低酸素
腎臓の慢性低酸素状態がすべての腎臓病の進行に深く関与していることが分かってきた (東大病院腎臓内分泌内科 南学正臣教授による)。
☆心腎貧血連関
☆HIF-PH阻害薬の腎保護
HIFを活性化することでマウスやラットの虚血再灌流障害モデルや5/6腎摘モデルで腎保護効果を示した。
今後、ヒトでの臨床試験でもHIF活性化により、腎保護効果や心保護効果、血管保護効果などが認められることが期待される。